小説日記:黒猫事件
黒猫は自分のことを一個の何処から見ても不足のない探偵だと認識していた。ただ残念なことに解決すべき事件と依頼者だけがかれには欠けていた。
そこでかれは昼間のねぐらにしている土管から抜け出すと眠たげな午後の日差しの中に宝石のように滑らかな毛皮で下り立った。黄色いトパーズの瞳で公園を見回すが、あたりには宿無しが二三人いるだけだ。剥き出しの地面を厭うようにかれは正方形の公園を斜めに横切ると、出口近くに鉄の侵入禁止の柵のところに至った。するとそこには三毛の仔猫がいて、なにか訴える様子だ。
視線のほうを追っていくとそこは公園の外で、なにやら切断された肢のようなものが見える。黒猫はひらりと柵を飛び越して近づいてみた。そこにあったのは車によって轢断された雌猫の死骸で、おそらくはさきの仔猫の母親なのであろうと思われた。ひとしきりあたりを検分すると、黒猫は、これは探偵の事件ではない、と結論を出してともかくさきの場所に戻ってみたが、仔猫はもはやいなくなっていた。
黒猫はそのまま道路にまた戻って向こう岸へとわたることにした。車が途切れるのを見計らって横断すると、二人の人間の子供が歩いてきた。どうやら制服を着ていることから中学生とわかる。黒猫は面倒を避けようとしたが、目ざとく見つかってしまった。
抱きかかえられて藻掻いていると、なにやら一方的に話し掛けてくる。父親がいないからつれて帰って飼ってやれないという。これは事件だろうか、と黒猫は一瞬考えたが、おそらくは違うと判断した。うるさくしばらくさわられていると機会を見つけたので逃げ出した。
足を伝って降りると、そのまま走り出す。しばらくいくと入り組んだ古い住宅街へと入った。たまたま板塀の割れ目から古屋の庭に入り込むと、そこには老婆が一人縁側に座っていて、庭の真中には梅が咲いていて香りが空気を染めている。
居心地がよさそうなので黒猫はとりあえず縁側に上がりこんで寝転んだ。老婆は気がつく気配もない。どれほどたってからか、おくのほうで玄関のあくおとがして、だれかが帰ってきたらしい。
起き上がって伸びをして、帰ってきた人間を見ると、さきほどの女の子供である。黒猫は、なるほど、これは事件に違いない、と考えた。しかしなぞはあっても依頼者がいない。
そこで、その子供のすそをひいて、さきほどの死骸のところまで連れて行って、弔ってやれ、という気持ちで細く長くないた。
庭に戻ると、やはり梅はうつくしく咲いていた。
黒猫はいろいろと間違っているかもしれないが、満足して、また眠りに入った。
了。
■ はてなダイアリーへの要望
トラックバックにつき、
1 はてな内部同士でも、excerptとtitleが送りたい。ひとつ。
2 pingbackと区別して、
id;jounoだけではおくらないようにして、
[ id:jouno ]とか
[ http: //d.hatena.ne.jp/jouno/20030319 ]ではじめて飛ばすようにしたほうがいいのではと思います。
ふたつめについての理由。
意識しないでおくれる、というのは敷居が低くてよいという反面、送られる側としては、送られたことの意味付けが低下する。とくにリンク元を最新に表示という設定の人の場合、かなり関係ないのが表示されそうです。
言及だけを知らせたいのであれば、リンク元で気が付くと思う。
いづれtitleとexcerptを内部でもおくるとしたら、無意識でおくれるのは、ちょっとトラックバック欄がうっとうしくなってしまうとおもう。
もっとも2に付いてはけっこう微妙というかひとそれぞれ考え方の問題なので、それほど強く要望しません。
いつも対応ありがとうございます。
現状で外部に送りたいひとはどれくらいいるのだろう……
内部同士はけっこうつかわれてるみたいだけど。
Comments(in hatena)