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 海に突然出る、そういうトンネルが近くの浜にあって、切り立った崖から紙切れが風にもてあそばれているかのように、カモメたちが踊っていて、ぼくはジャックとかれの妹といっしょにはじめてその光景を目にしたとき、なぜか、天国のイメージではないのだけれど、世界というのはこういうふうなものなのかもしれないな、と急に思ったのです。
 きみはぼくがすぐに感動するやつだということを知っているから割り引いてくれるでしょうが、世界のイメージというのはぼくのそのときの感じに即してみれば、そんなに突飛なものではなかったのです。それをもちろん説明する言葉をもっているわけではないのですが、風や乾いた塩のにおいや、腐った海草の堆積、観光客がもってくるさまざまな文明の排泄物をみているうちに、この陽光の明晰さは、ぜったいになにか本質的なイメージを孕んでいるんだ、そういう確信にうたれたんです。
 当地でのぼくの生活はあいかわらずです。スルタンはややあせりだしてきたようです。いつまでここにいられるか分かりませんが、いられるあいだは、強烈な光に照らされたこの地の無数のイメージをできるかぎり焼き付けていたいと思っています。
 返信、とてもうれしかった。何度も何度も読み返しました。あいかわらず、字はうまくなってませんね。便箋をひらいてみたとき、おもわずあなたの文字を見て、にやにやしてしまいました。では、またすきをみてお手紙します。 喬